行動動機は案外、意外
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


       




 勘兵衛の見立てた通り、こちらの一味が担当していたのは単なる陽動、世間の目と警察の撹乱を受け持った“囮”による騒動で。集められていた手下も、実は単なる頭数合わせの素人たちであり、しかも今日初めて顔を合わせた同士だったという話。何でも、あの場のリーダー格だった男に、借金だの喧嘩の借りだので脅しすかされて集められた顔触れ。危険はないし、本当に人殺しをするんじゃない。ちょっとしたパフォーマンスをするだけで、途中であっさり降伏し、むしゃくしゃしていたから目立ちたかったとかどうとか、それらしくも適当な動機を自白して終われば。悪くしたって懲役1年かそこいらの罪、どうかすりゃ執行猶予もつくだろう微罪だと丸め込まれたらしく。

 「本物の銃を発砲して威嚇したんじゃあ、
  それは通りませんけれどもね。」

 呆れたもんだという口調で平八が呟いて、

 「日本ではどうなのか知りませんが、
  アメリカでは重犯罪の場合、
  見張りだっただけとか運転手だっただけなんてのは通りません。」

 例えば強盗に押し入って住人を皆殺しにした事件だったりすれば、自分は銃にすら触れていなくとも立派な共犯と見なされ、最悪の場合、主犯とほぼ同等の“第一級殺人”の罪を負わされる。それが嫌なら、身を呈してでも止めるか警察へ未然に通報しとけばよかったのにと、そうとしか遇されないのが、警察や司法の方針なんだそうで。あそこまで銃社会になってしまうと、そういうことも覚えとかないといかんらしい。

 「中国では、
  麻薬にかかわった人は死刑も覚悟しなけりゃいけないそうですよね。」

 「歴史の本にも載ってるほど、そういったものを憎んでる国ですもの。
  ちょっと考えれば判りそうなものでしょうにね。」

 あと、女性が親の決めた相手以外の男性と恋に落ち、婚前交渉や駆け落ちでもしようものならば、一族を挙げて取っ捕まえて、火を点けて焼き殺すという、何とも残酷な“誇りの処刑”が近年でさえ秘密裏に続けられてた民族もあるらしく。国や民族によっては、常識や公序良俗もこうまで違うという話はともかくとして。

 「そんな急場を凌いだだけじゃなく、
  まだ見えてもなかった“真の計画”まで未然に防げたなんて。」

 場数を踏んでいるだけのことはありますわねと、愛らしい仕草で、小首を傾げて微笑った白百合さん。そんな彼女や平八、久蔵が、くるくるパタパタと忙しそうに立ち働いて、テーブルへまで運んでいるのは。カウンターの中にある小さなコンロと、そんな作業台の下段に据えられたオーブンとだけで作っておいでとは思えないほど、それは見事なお料理の数々で。カレー風味の石焼きビビンバや、甘辛だれの利いた串焼きに、サフランのやさしい黄色が、エビやタコにムール貝といった海鮮ものや、パプリカにミニトマトの鮮やかな色彩を引き立てるスペイン料理のパエリア。窯焼きピザに肉巻きおむすびに、ぱりぱりに揚げたベーコンを散らした瑞々しいレタスのドレッシングあえを挟んだ、シーザーズサンド…といったラインナップを、手際もよろしく次々に出しておいでの店主殿を、今でこそきびきびと手伝っているものの、

 『な…なんですか、これ。』
 『公民館…?』
 『あ、あのボックスカーってウチのですよ、ほら。』

 思わぬ格好で、テレビで中継されていた“籠城事件”を知って。取るものもとりあえず、平八の手元においてあったそれぞれの普段着に着替えると、ついでに特殊警棒や木刀までもを装備して、現場まで駆けつけんとしていた、そりゃあ勇ましかった三人娘たちだったのでもあり。

 『もしかして爆弾とか仕掛けられてんじゃないかって。』

 だから勘兵衛様も下手に動けなかったんじゃないかって案じたんですよと、胸の前に両の手を組み、青いお眸々をうるうるうると潤ませて詰め寄った七郎次だったのへ、

 『その心配もあったので、
  遠目ながら、赤外線スキャンをかけさせていただいたほどです。』

 一見、どこにでもありそうなメガホン型の、だがだが肩から丈夫そうなストラップで吊った装置のおまけつき。何だか大仰な代物、大まかに言えば建物へと非破壊透視をかけられるマシンを引っ提げて、籠城現場だった公民館まで、それは勇んでまかり越すつもりだったらしいお嬢様がたで。

 『現場は上を下への大騒ぎ、混沌としておりますんで。』

 一応の収拾はみたけれど、担当者としてではなく被害者として、一応の報告の必要もあるのでと。佐伯刑事が何とか引き留めに成功したという経緯だけを聞き、捜査本部のほうへ事情聴取に向かってしまったお歴々。まさかにそっちへまで乗り込んでって付き添う訳にも行かず、佐伯さんに送っていただき、じりじりと待っていた此処へ、やっとのこと彼らが揃って戻って来たのが小半時ほど前だろか。まだ陽のあるうち、よって営業前のカウンターバー“八百萬”の方にて、早めの晩餐だか、遅いめのおやつだか、お疲れさんとの意も込めての慰労会。その実、お嬢さんたちへの説明会を開く羽目と相成っている、保護者の壮年殿たちだったりし。

 「まあ、確定できたのは、
  主犯が始終見ておった…携帯に呼び出されていた
  何かの進行地図あってのことだがな。」

 そう、あの連中の本当の目的だった標的は、連休前で手元の現金を降ろしておく客も多かろと、少し多めに積んだ現金を近隣の金融機関各所へ輸送中だった、警備会社の現金輸送車だったとか。

 「選りにも選って警備会社の輸送車では、
  急襲するなんて大変な手間暇がかかるし、
  力づくでかかって成功したとしても、逃げおおすのが容易じゃあない。だが、」

 その初動で警察が出遅れたら? テレビやラジオでも報じている、間違いなく現在進行中の騒動が原因での道路封鎖に遭い、予定外のコースを取らされた上、白バイが誘導してくれたら、そこはやはり…何処にも疑う理由はないしと民間の警備会社ならあっさり信じてしまいもするだろし。そうやって誘導された先が、倉庫だの廃工場だのという人気のないところで、

 「相手の手のひら、腹の中へ誘い込まれたなら、
  いくら腕に覚えのある警備員でもひとたまりもない。」

 そこでこそ数で掛かられたなら、殺されぬまでも 縛り上げられての拘束されて、ではサラバと置き去りにされてもしまうだろう。そして、そんな彼らの行方を捜すのに、まずはと時間を取られてしまい、初動捜査は随分と後れを取ることとなってしまうわけで。

 「そういった“何か”の陽動だったことを確かめたくて、
  犯人たちを畳んでも、
  すぐさま“無事だぞ”と外へ伝えなかった勘兵衛様だったのですね。」

 やっとのことで無事だった皆様との再会を果たせたとあって。甘味処のお隣にあたるこちらの店舗から外へと飛び出したまでは同じだったが、

 『ゴロさんっ!』

 よかった無事だったとばかり、歓喜のまんま五郎兵衛へと飛びついての抱き着いた平八と違い、

 『〜〜〜〜。』
 『勘兵衛さま…。』

 あとの二人の含羞みようと、言葉の出なさ加減を、やはりそれぞれ、ちゃんと拾ってくださったところは及第ながら。

  それでも、だって、ねえ?と。

 他でもない当事者からお話を聞きたいとする彼女らなのは明白。それぞれの立場から各々で語って、結果 話がばらばらになってもややこしいので。いっそのこと、此処で まだ生暖かい内に(…おいおい)一括して話して聞かせることとなった次第らしくって。

  ……って、えっと。
  どこまで話したんでしたっけ?(こらー)

 そんな呑気な構えようになってもしょうがない。もはや一件落着したことだからではなく、決着の仕方からして あまりにあっけない運びだったからで。事件の発生から2時間経っても、犯人との交渉に手間取っていたものか、警察の突入の気配もなく。周辺への通行規制がかかり、報道陣を含め、人質の家族らが遠巻きに見守る中、警備隊らしき いかめしい制服姿の面々が、じりじりしつつもあちこちに配備されている止まりの様相だったのに。

  何しろ敵は銃を装備している複数犯とあって、
  それなりに緊迫していた現場でもあり。

 警察の動きを相手へ伝えてしまうからと報道にも規制がかけられて、人命優先、手に汗握る緊張逼迫という気配の充満していた、そんな公民館の正面玄関、一枚ガラスのスイングドアから。スーツ姿の壮年が一人、それは平静な態度で出て来ると、包囲していた警察へ“おいでおいで”と手招きをした…という。何とも実に呆気ない格好で幕を下ろした籠城事件だったと、今のところの表向きには伝えられており。

 「でも、本当はそんな大きな計画の一端だったのでしょう?」

 籠城事件の方だって、何人もの無辜の人々を銃なんていう凶器で脅して拘束していたのだから。強盗や殺人事件ほどじゃあないにせよ、ただでは済まないのでしょうけれど。

  これは単なる目眩ましで、
  もっと深刻な事態が起きるはずだったというのなら。

 悪事には違いないのだ、いくら未然に防いだと言っても、いやさ防いだからこそ、広く公表されなきゃおかしくないかと。お嬢様がたとしては、テレビのニュースなどでそちらがなかなか公開されないのが、いかにも腑に落ちないでいるらしく。

 「現金輸送車は結果、襲われないで済んでしまったんで、
  外聞ってものがあろう警備会社のほうから、
  何か言われてるんでしょか?」

 「ヘイさん?」

 男性諸氏にはまだだった昼食の代わりでもある晩餐で。すっかりとセッティングも済んだということで、さあ頂きましょうかと席に着きつつ、そんな鋭いことをポロリとこぼしたのがひなげしさん。

 「ですから。
  信用問題にかかわりましょうからってことで。」

 鹿爪らしくも人差し指を立て、薄目を開けての何かをじいっと見据えるような表情となって。彼女が展開した論というのは、

 「そんな幼稚なからくりで翻弄されるはずがないでしょとか、
  いやいやもっと手前の話、
  一体何のことやら…と途惚ける方向に話が逸れるかも知れないと。」

 「ヘイさん、なかなか辛辣だの。」

 確かに、彼らの真の目的だったらしい輸送車急襲は、どこも報道してないくらいで、実際には起きなかった…ことになっているが、

 「起きなかったと厳密には言えなくてな。」
 「……え?」

 ひょいと箸を延ばし、生きのよさそうな野良の、もとえ
(笑)天然の鯛を使ったカルパッチョ、小皿へと頂戴しつつという“ながら”でもって、大したことじゃないと装い、さらりと言ってのけた敏腕警部補殿だったが。とはいえ、他の面々もそこは聡い顔触れ揃いだけに、殊にお嬢様がたは あっさり聞き流したりはしない。あれほど案じたのちの次第、いい加減なことで済まされては納得がいかぬとばかり、当然続くだろう説明を、沈黙と凝視をもって待たれてしまったほどであり、

 「だから、だな…。」

 現に輸送車は無事だったが、それを襲おうとした方の実行班までもを釣り出すためには、白バイ警官に扮した急襲班誘導係が“安全な迂回路へご案内します”と接触しないと話にならぬ。芋づる式に一味全員を捕らえるためという前提ではあれ、そんな輩が近づくと判っていながら看過した、いやさ“餌にかかれ”と警察サイドが見守った形になった点が、上層部の理屈にうるさい方々の間で少々問題になっているようで。

 「何ですよ、それ。」

 とろっとろの半熟卵とじの乗っかった若鷄の蒸し煮を攻略中だった、ちょっぴり箸さばきの覚束ぬ紅ばらさんへのお手伝いをと買って出ていた七郎次がついつい憤慨したは。たかだか面子の問題なんかで、勘兵衛の奮闘や機転を無為にするかと思ったからで。ただ…これが遠い地でのよその人らに起こった出来事ならば、同じように思ったかどうか。というのも、

 「日本の警察は“おとり捜査”も禁じ手にしていますものね。」

 いくら“振り”でも、警察の人間に犯罪へと手を染めさせて事件を発生させてしまってどうするかという理屈だそうで、同じ意味合いから、例え相手が麻薬や拳銃の売買をしているらしい広域暴力団や、破壊行動を起こしそうだと噂の危険な思想集団へであれ、まだ何も起こってないうちの電話の盗聴も、しっかと禁じ手にされておりました。(誘拐事件での電話の傍受は別。既に犯行が起こっていますし、逆探知が目的ですんで。) そこのところ、お得意のハッキング行為を盗聴行為や何やで引っ括られないように、先手を打ってだろう、きっちり調べてもおいでだった平八がやれやれと口にすれば、

 「まあそこは、頼もしいOB様が、
  何を細かいことでぐだぐだ揉めておるかとの一喝を
  警察関係の上層部へ食らわしたそうだし。」

 そういった非難が返って来ることは重々承知だったか、精悍なお顔にようよう馴染む、余裕の笑みを覗かせた勘兵衛。そんな風に…それこそ部外秘の部分でもあろう内幕をちらりと公開し。それへと続けて口を開いたは、意外や意外に兵庫殿で、

 「そのお人が相談役を請け負っている某有名ホテルチェーンの総帥が、
  そちらは警備会社の側へ、
  無事に済んだことを感謝するならまだしも、
  責任問題を丸投げするようなことも厭わぬ方針とは思わなんだと、
  そんないい加減なところへウチの警備を今後も任せる訳には…なんていう、
  ほのかなる脅しをかけたらしいとのお話だしな。」

   今回の籠城事件には 実はそのような裏があり、
   警備会社の側も警察からの協力要請を受け入れて、
   敢えてオトリになり返し、そんな一味を一網打尽にした…という

 「そんな筋書きに整理されて、間もなく公表されると思うが?」

 そんな一言で場を収めた勘兵衛だったのへ、

 「さあさ、お腹を暖めてハラハラもムカムカも吹っ飛ばそうぞ。」

 〆めに回ったは五郎兵衛殿。両手で抱えて来た大皿に盛られた、蒸し栗添え 松葉ガニのチャーハン、薄味のあんかけを、既にわくわくと瞠目状態のお嬢様がたへ“さあどうぞ”と供しつつ。そんな魅惑の号令かけて、つまらないお話はもう終しまい。サワードリンクを片手に、まだちょっと汗ばむ日を過ごした皆様、皿の上のあちこちにちりばめられた秋の気配を、明るい笑顔と楽しいおしゃべりを添え、何よりも…傍らにある大切な人の気配にひたりつつ、それは幸せそうに頬張ったのでありました。








  ● おまけ ●


 勘兵衛様
 ? なんだ?

 あのあの、私たちがついつい勇んで何でも自力で解決しようとするの、
 とっても心配なさってらしたんでしょうね。

 秋の陽はつるべ落としとはよく言ったもの。まだ今のところは、日暮れどき自体が遅いので それほど急だとも気づきにくいが。それでも…山の稜線や、町中ならばビルの群れなす西の空の果てへと茜色した太陽がその姿を隠せば。さして間を置かぬ間というほどもの早じまい、空も大気もあっと言う間に明るさを失い、灯火がないと人の顔さえ見分けがつかぬほどの薄暗さに沈んでしまう。そんな中を、事情聴取のあった所轄署から乗って来た車が置いてある駐車場までと。家まで送るつもりの七郎次を連れて、のんびりした歩調で歩んでいた勘兵衛。

 「??」

 繁華街とは程遠い住宅街の通りだからか、庭から聞こえるそれなのだろ涼やかな虫の声と、どこかのお宅のご家族の会話の気配が時折届く程度の、至って静かな町並みだけに。遠慮がちな七郎次お嬢様のお声も、勘兵衛には難無く聞き取れており。元主従の二人ではあれ、転生後の今の生では当然のことながらそんな間柄でもなく。よって、どんな無茶や勝手をしでかそうと、原則、拘束してまでという制止の権限はないのだけれど。

  そんなつれないことで自己主張し合うような、
  冷めて乾いた間柄には、幾らなんでもなりたくはなくて

 ああでも、こんなにもじりじりと歯咬みをして過ごした半日なんて、久方ぶりに体験しましたと。籠城犯らに人質にされていたこと、報道より早く、平八が盗み見られるようにしてくれた防犯カメラ経由で知ったときの驚き、今またその苦さが去来したのか、パーカー仕立てのブラウスの胸元を押さえた白百合さんだったので。

 「……すまなんだな。」

 住宅街の中の、人気も車の行き来もない小道。少し間を置き、立ち止まっていたお互いだったの、勘兵衛の側から少し戻る格好になって、うつむき加減だった少女の真ん前までへと歩み寄り。その気配へ“え?”とお顔を上げた青い双眸の美少女へ、

 「口を酸っぱくしてとは大仰だが、
  危険な場へわざわざ身を置くとはと、いい顔はしなかったはずだのにな。」

 悪党退治のつもり、若しくはお友達や知己の窮地を見捨てて置けず。かといって、このくらいのことで警察に訴え出るのもなぁとも感じたのは、ついつい自分らの腕や機転を過信したからで。元さむらいだった意識と共に、反射や体さばきが戻っているのだもの大丈夫と、だからとっとと自己救済しちゃえと構えるのが常だった、そこが一番に困った感覚をなさっておいでのお嬢様たちだけれど。今日の一件はさすがに…見守る側の、事件の外にいる側の心情というの、彼女らにも実体験させた結果となったようで。それでとしおしお萎れておいでの七郎次らしいのへ、

 「管轄外なところで うかうかと人質になるわ、
  挙句、随分と勝手な大暴れをしておってはな。」

 「それは…。」

 何か言いかけた七郎次の頬へと、やや武骨な手で触れて。不意な温みへ含羞むように言い淀んだところへ、

  すまなんだな、と

 まだまだ幼いその胸中をただならぬ不安で塗り潰させて、それは案じさせたことをあらためて詫び直す。駆け回る所存 満々だったか、さほどにはヒールも高くはないサンダルをはいた彼女は、ちょっぴり項垂れていたせいもあったか、日頃よりも随分と小さく見えて。そんな細い肩に手を置き、

 「思えば 捜査中なぞにも、
  根拠なく“切り抜けられるから”と見切りをつけての、
  とんでもない無謀をすることは多々あったが。」

 え?と見上げて来たお顔の、白いおでこへ額を寄せると、

 「そういうときの感覚に似たようなものが、
  お主らにもついつい浮かんでしまうのだろうな。」

 深色の目許、困り顔の一部としてかすかにたわめ。だがだが、どう答えて言いのやらと、その青玻璃の視線を揺らめかせてまで戸惑う様子の愛らしさとそれから、

 “…………お。”

 大ぶりな自分の手の中、かすかに身じろいだ小さな肩の…何とも可憐で切ない存在感を意識してしまったその途端。ついつい常の自制がとんっと、整然としていたはずの気持ちの詰めやらけじめやら、あっさりと波打たされたような気がして。

 「   ………え?/////////」

 お互いが あっと気がついた時にはもうもう、七郎次は精悍屈強な胸元へと引っ張り込まれていた自身の、心の据えどころへ大いに戸惑っていたし。勘兵衛の側は側で、かつてより相当に小さくて柔らかな肢体、その腕の中へと掻い込んでいた自分の堪えの利かなさへ。

 ああきっと あとあと後悔しまくるのだろうな、と思いつつ。


  「  すまぬな。もうちっとほど、こうしていてくれるか?」

  「あ      は、ははははは、はい。///////////」


 十五夜はとうに過ぎての、早々と上って来た下弦の月が。すぐの頭上にあることにさえ気づかぬまま。真っ赤になった小さなお嬢さんと、背広姿も板についてる、もしかしてお父様かしらというほども年の離れた男性と。足元から伸びる影を一つにくっつけ、秋の夜長の始まり、優しい宵の風の中、しばらくほど、そうやって寄り添い合っていたのでありました。







    〜Fine〜  11.09.22.〜09.26.

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 *何ぁんか なし崩しな終わり方ですいません。
  シチちゃんにはこういう報われ方がないと、
  ああまで日頃 待って待って我慢して、
  どんなときでも勘兵衛様を立てて…としているのにと思うと、
  どうあっても不憫でなりませぬゆえ。
  初秋のお月様と夜風しか知らない秘密ですが、
  シチちゃん自身がいつまでヘイさんや久蔵殿へ黙ってられるやらvv



  そいでもって、おまけの後日談。  →
大急ぎの代物ですが…

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